近年、地球規模での環境問題やエネルギー問題などから、新しいエネルギー材料の開発が急務となっている。中でも高性能な蓄電機能や電池特性を有する物質の開拓は重要な研究課題の1つである。高性能な二次電池を実現する上で、多核金属錯体分子(分子クラスター、図1左端)は電極活物質として有望である。なぜならば、分子クラスターの多電子の酸化還元に由来した高い蓄電容量だけでなく、分子の速い酸化還元や対イオンの正極活物質への自由なアクセスに基づいた高速充電が期待されるからである。ここでは、この分子クラスターを正極活物質とした新しいリチウム二次電池『分子クラスター電池』(図1)についてその充放電特性を述べるとともに、in situ XAFS測定による電池反応機構の解明および分子クラスターのナノハイブリッド化による電池特性の改良を報告する。分子クラスター電池の充放電特性[1], [2]Mn12クラスター(Mn12O12(CH3COO)16(H2O)4)やポリオキソメタレート([PMo12O40]3-、PMo12、図1左端)などの様々な分子クラスターを正極活物質としたリチウム電池を作製し、定電流充放電試験を行った。ここでは、代表的な充放電曲線として、PMo12電池のものを図2に示す。1サイクル目の放電容量は、従来のリチウムイオン電池(約148 Ah/kg)よりも高い約260 Ah/kgを示し、10サイクル目においても約200 Ah/kgと1サイクル目の7割程度の容量を保持していた。また、充電(放電)時間は約2時間であった。このように、多核金属錯体分子(分子クラスター)が二次電池の正極活物質として機能することを明らかにし、Liイオン電池を超える放電容量と急速充放電が実現可能であるということを示した。In situ XAFSによる反応機構解明[3],[4]分子クラスター電池の電池反応機構(高い容量の原因など)の解明は、電池性能の向上だけではなく、基礎科学的にも新しい現象の発見などにつながる可能性がある。ここでは、電池反応における分子クラスターの固体電気化学について電池充放電中の正極材料のin situ X線吸収スペクトル(XAFS)を測定して検討をおこなった。In situ XAFS測定用の電池セルを自作し、Mn12クラスター電池の場合にはMn K-edge、PMo12電池の場合にはMo K-edge XAFS測定をおこなった。Mn12クラスター電池のin situ XANESスペクトル(図3(a))より、放電に伴い吸収端エネルギーが低エネルギー側にシフトすることが分かった。この吸収端の位置変化は充放電で可逆であった。吸収端エネルギーよりMn価数を算出したところ、図3(b)に示すように、放電過程においてMn12分子が約8電子の還元を経ることを明らかにした。同様に、PMo12電池の場合、放電過程で24電子の還元が起きていることが分かった。クラスター分子の多電子の酸化還元は大きな電池容量の要因であり、分子クラスター電池が高密度・高エネルギー型の次世代電池として有望であることを示唆する。なお、分子クラスターの高還元状態([Mn12]⇔[Mn12]8-、[POM]3-⇔[POM]27-)は溶液中の電気化学では得ることができない化学種(溶液中では3電子の還元までが可能)であり、分子クラスターの高還元状態における新奇物性も期待される。分子クラスターのナノハイブリッド化[5]初期の分子クラスター電池では、正極材料に導電性炭素と分子クラスターの単なる混合物を用いていた。ここでは、より効率的な分子クラスターからの電子の取り出しを目指して、分子クラスターと単層カーボンナノチューブ(SWNT)からなるナノ複合体の作製を試みた。このようなナノ複合体では、活物質である分子クラスターからのスムーズな電子移動やリチウムイオンの素早い保持、拡散が予想され、より良いサイクル特性と急速充電が期待される。SWNTのトルエン懸濁液とPMo12のアセトニトリル溶液からSWNT-PMo12複合体を得た。TEM像(図4)よりSWNT上に直径1.4nmの黒い粒子が観測され、EDXによってMo元素の存在が確認された。このことは1分子〜数分子単位でPMo12が吸着していることを意味する。この複合体を正極とした電池の充放電特性から、複合化により容量が増大することが分かった。また、充放電レート依存性を測定したところ、PMo12のみを活物質とした場合よりも2倍程度速い充電が観測された。このような急速充放電および高容量化は、ナノカーボンとの複合化により、分子クラスター1つ1つから効率的に電子を取り出すことができるようになったためと考えられる。本研究では分子クラスターが二次電池の正極活物質として利用できることを初めて示した。様々な分子クラスターを用いることやナノカーボンとのハイブリッド化によって容易に電池性能を向上させることが可能であり、次世代電池としての実用化など今後の展開が非常に期待される。
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