細胞膜などの生体膜は、疎水基と親水基を持つ両親媒性分子であるリン脂質が二重膜構造をなし、その中に含有されるタンパク質がシグナル伝達などをすることにより機能している。従って生体膜の「骨格」の役割を果たすリン脂質二重膜がどのように形成されるのかを理解することは重要である。DPPC(ジパルミトイルフォスファチジルコリン)等の人工のリン脂質は、水中で二重膜構造を作りこれらが6nm程度の間隔で規則正しく積み重なった「ラメラ構造」を形成する。その面間隔はいくつかの相互作用のバランスで決まるものと考えられているが、しかしそれだけでは理解できない実験事実も多い。また細胞などの生体内小器官はマイクロメータースケールの単層の二重膜で囲まれているが、なぜそのような構造が自発的に形成されるのかは分かっていない。そこで我々は、人工脂質によるマイクロメータースケールの単層二重膜小胞(巨大ベシクル)を作る手法の一つである静置水和法に着目し、その形成過程をX線小角散乱を用いて調べた。その結果、基板上のリン脂質乾燥膜が水和される動力学的な過程が重要であることを明らかにした。本講演ではリン脂質膜の秩序形成にポイントを置いて、ソフトマター系でナノメータースケールからマイクロメータースケールに至る階層構造がどのように形成されるのかについて議論する。更にアメーバ状の変形運動を行う油滴に関する実験結果を示し、平衡から遠く離れた状態にあるソフトマター系が自発的に作る空間的・時間的秩序について紹介する。それらを通して、物質の秩序についての理解が生命現象の理解にどうつながるか、と言う点について展望を示したい。
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