1.空間構造の形成および機能を発現する上で配位結合が主要な役割を演ずる空間を「配位空間」と捉え、ナノサイズの空間(ナノ空間)を分子レベルで精密制御する新しい化学が出現してきた。ナノサイズの空間を提供する物質、たとえば活性炭やゼオライト、新しくはカーボンナノチューブなどはナノサイズの特異な微小空間の効果によって機能を発現する事から、基礎科学的、応用的両側面から注目を集めている。その中で我々が研究対象として扱う多孔性金属錯体とは、有機分子と金属イオンとの複合化によってできるミクロ孔(<2nm)を有する新しい物質の事であり、近年加速度を増して研究が進んでいる。これは、多孔性金属錯体が物質として新しいだけでなく、多孔性金属錯体のナノ空間で新規現象が次々と見出され、バルク分子集団にはない化学や物理を発見できる宝庫であることがわかり始めたからである。空間内におこる未知の分子凝集、分子ストレス、分子活性化の諸現象に注目して研究を展開し、多彩な新規「ナノスペース物質」を創製する化学を紹介する。
2.多孔性錯体は、高い空隙率と比表面積、規則構造、設計性を併せ持つ新しいマイクロポーラス物質である。これを用いてゲスト分子の吸蔵(貯蔵)、分離を分子レベルで制御する精密化学を展開することができた。特にゲスト分子の特異的凝集構造を創製して未開拓の機能と物性を探求してその設計原理を解明し、全く新しい配位空間中でのゲスト分子集積化学を創成しつつある1)
2.1 規則性細孔中でのゲスト分子の凝縮、配列多孔性錯体は非常に均一で規則的なマイクロ細孔構造を有しているために、細孔中にゲスト分子の規則的整列状態を実現することが可能である。この特殊なナノ空間に、強いポテンシャルを受けながら分子が充填するときは、バルクでは見られない特異な低次元の凝集状態が期待される。酸素は最小の安定常磁性分子である(S = 1)。その低次元集合構造および物性は大変興味ある課題である。最近、多孔性配位高分子である[Cu2(pzdc)2(pyz)]の1次元チャンネル中に規則配列する酸素分子ラダー構造を得た。ラマン測定から固体酸素に約2万気圧をかけたのと同程度の状態であることが示唆された2,3)
2.2 アセチレン分子は分子内の3重結合に由来する非常に反応性の高い分子である。我々は、この反応性の大きなアセチレンを多孔性金属錯体の特性を利用して、安定に吸蔵させることを目的に実験を行った。多孔性金属錯体の細孔表面は様々な原子によって構成されているがCPL-1の場合、塩基性の酸素原子が露出しており、この酸素原子とアセチレンの水素原子とが、静電的な相互作用(水素結合)を示す事が期待された。CPL-1にアセチレンを吸着させた試料を、X線構造解析を行った結果、細孔中のアセチレン分子は表面の酸素原子と分子の両末端で水素結合し、1次元に整然と配列していた。細孔の容積とアセチレンの吸着量から、細孔内でのアセチレンの密度を見積もるとその値は0.44g/cm3で非常に高密度なものであった。またこれは常温で圧縮していくと爆発の危険のある限界値の200倍にも達するものであった。この結果は、アセチレン分子がある程度の距離を置いて整列することにより、爆発的な反応が阻害されているためであると考えられる。このCPL-1へのアセチレン吸着の特異性は二酸化炭素との比較によっても示された。アセチレンと二酸化炭素は、形状、臨界温度、沸点など非常に良く似た分子であるため、通常はそれぞれの多孔性物質への吸着挙動は似かよったものとなる。しかしながらCPL-1の両者の吸着量の差は最大で26倍量にもなっていた。これは、ほんの一例であり、多孔性金属錯体の細孔には新しい科学が非常に多く存在する、“ナノ空間場”であり今後の展開が期待されるものである。


文献
1. S.Kitagawa, R.Kitaura, and S.Noro,,Angew.Chem.Int.Ed.(Review), ,43,2334(2004).
2. R.Kitaura, S.Kitagawa, Y.Kubota,T.Kobayashi, K.Kindo, Y.Mita, A.Matsuo, M.Kobayashi, H.-.Chang,T.C.Ozawa, M.Suzuki,M.Sakata, andM.Takata, Science, 298,2358(2002).
3. S.Kitagawa, Nature, 441,584(2006). News and Views.
4.R.Matsuda、R.Kitaura、S.Kitagawa、Y.Kubota、R.V. Belosludov、T.C. Kobayashi, H.Sakamoto, T.Chiba,M.Takata, Y.Kawazoe, Y.Mita、Nature, 436, 238 (2005).

閉じる